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第58回へ                  第59回 2013年12月21日掲載                  第60回へ >
長谷寺のだだおし ―― 大松明と鬼の火祭り
 
 2月14日に長谷寺(桜井市)では「だだおし法要」を営む。赤、緑、青の3匹の鬼が巨大な松明(たいまつ)を手に堂内外を暴れ回り、追い出されるという儀式で、この地に春を呼ぶ一大火祭りだ。
 人々の罪や過(あやま)ちを仏前で懺悔(さんげ)し、身も心も清らかになるとして、長谷寺では「修二会(しゅにえ)」の法要が営まれる。その締めくくり(修二会結願(けちがん)大法要)が、14日のだだおし法要だ。
 能化職(のうけしょく)(住職)に従い多くの僧侶が登廊(のぼりろう)を上がり、参列者に見守られながら本堂に入る。本堂内陣の十一面観世音菩薩の前で、人々の罪科(ざいか)を懺悔する法要が営まれる。
 速いテンポでリズミカルにお経が読まれ、ほら貝が吹かれ、激しく太鼓がたたかれる。乱声(らんじょう)乱打といわれる厳かで勇壮な儀式で、参列者は一気に「だだおし」に引き込まれていく。
 続いて宝印(ほういん)授与が行われる。「だんだいん」と呼ばれる宝印を、諸仏・諸菩薩や参拝者の額、参拝者に授与された牛玉札(ごおうふだ)に押し当てる儀式で、悪魔退散・無病息災を祈る。


長谷寺で毎年2月に営まれる「だだおし法要」=桜井市

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 「だんだいん」は長谷寺を開山した奈良時代の徳道(とくどう)上人から受け継がれてきたといわれる。
 徳道上人は病により仮死状態になって閻魔(えんま)王に会った。閻魔王は「近ごろは地獄に来るものが夕立のように多い」と嘆き、「帰って浄土と地獄があることをよく教えるように」と頼んだ。そこで徳道上人は「頼まれたという印(しるし)をいただきたい」と告げると、閻魔王は「だんだいん」を授けたという伝承である。
 暴れはじめた赤鬼、緑鬼、青鬼は「だんだいん」を押した牛玉札によって本堂から追い出される。鬼は松明(たいまつ)を手に、本堂の周りを回る。
 松明は激しく燃え上がる。赤鬼が持つ松明は一番大きくて長さが4メートルあり、重さも120キロだ。鬼たちは堂の周りを回り、すれ違いざまに激しく松明をぶつけあう。

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 松明は頑丈で、しかもよく燃えなければならない。松明を作っている豊森(とよもり)新次さんにお話を聞くと、「ジンという松の樹の赤身のところを小割りして松明を作ります。ジンは松ヤニをしっかり含んでいるので、激しく燃えます」。
 花びらが開くような形の松明は迫力があり、しっかり燃え上がるようだ。出来上がりの形を考えながら、一本一本の割り木を鉈(なた)で削り、形を整える。大松明だと、割り木は40本必要で、根気がいる仕事だ。
 豊森さんは、「よく燃えて、しかも頑丈なものをつくることが大切ですが、何といっても200年の樹齢の貴重な松を使っていることに感謝しながら、松明づくりをしています」と力を込める。
 豊森さんは「だだおし」の日、松明を従えて堂を周回する鬼のサポート役もする。「主役は鬼と松明。ぼくらは黒子ですから目立たぬように」と控え目だが、松明の燃え具合を見ながら鬼の動きを鋭くコントロールして法要を支える。
 だだおし法要は、年明けの2月14日午後3時から行われる。内陣から追い出された3匹の鬼が大松明を持って初瀬の山で暴れるのは夕刻になってからだ。
  (NPO法人奈良まほろばソムリエの会 雑賀耕三郎)
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