荒木(あらき)神社は五條市今井町の北端、市の町並みが見渡せる高台に鎮座し、近くには旧伊勢街道が通ります。祭神は不詳ですが、平安時代の「延喜式神名帳(えんぎしきじんみょうちょう)」に式内社と記された古社です。
正面の標縄(しめなわ)が飾り付けられた朱塗りの鳥居をくぐり、石段を登ったところに本殿があります。一間社(いっけんしゃ)(正面の柱間が一つ)の春日造(かすがづくり)(切り妻屋根で、棟と直角な面に入り口がある様式)です。本殿の奥に広がる荒木山は古来「浮田(うきた)の杜(もり)」と呼ばれ、その荘厳さは現在も変わらず感じることができます。
この杜は万葉集に「かくしてや なほや守らむ 大荒木の 浮田の杜の 標にあらなくに」(作者不詳、巻11・二八三九)と、詠まれました。標縄に自分を見立てて「このようにずっと見守り続けるだけなのだろうか。大荒木の浮田の杜の標縄でもないのに」と女性の思いを込めた恋歌です。(男性の歌とする解釈もあり)
歌の背景には、この杜が古来より神威厳しく人の立ち入りを禁じていたことがあるようです。1957(昭和32)年、神社と荒木山一帯が「浮田杜伝説地」として県の史跡に指定されました。
浮田の杜の神聖な樹林や荒木山こそが神社の御神体、祭神だったのかもしれません。
(奈良まほろばソムリエの会会員 磯村洋一)
(住所)五條市今井町905
(祭神)不詳
(文化財)「浮田杜伝説地」として県史跡に指定
(交通)JR五条駅下車徒歩約20分
(拝観)境内自由
(駐車場)あり
(電話)なし
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